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江戸の疝気事情

 疝気とは、中年過ぎの男性に起こる、冷えなどから来る腰、小腹の疼痛の総称です。また、脱腸などで陰嚢が肥大したものを「疝気の睾丸」と呼びました。現代医学から見れば、脱腸を始め、尿道炎、胆石、膀胱炎、睾丸炎、胃下垂、胃拡張、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃痙攣、胃酸過多、神経性胃炎、すい臓炎などなどすべて「疝気」としてしまう様です。さらには、椎間板ヘルニアやぎっくり腰などによる腰部の痛みも疝気であり、それぞれ個別の治療を施さなければならないのですが、江戸から明治頃までは、すべて「疝気」と称し、画期的な治療法もなく、万病回春と言う書物によると、「疝気には、小茴香(しょうういきょう=セリ科ウイキョウの成熟果実)・川楝子(せんれんし=センダン科トウセンダンの成熟果実)を主薬とすべし」としてある他、胃腸の働きを良くし、体を暖める「烏苓通気散(うれいつうきさん)」と言う、当帰(とうき=セリ科トウキの根)、茯苓(ぶくりょう=サルノコシカケ科マツホドの菌核)、朮(じゅつ=キク科ヤマアザミ)、烏薬(うやく=クスノキ科テンダイウヤクの根)などを調合したものや、「加減香苓散(かげんかりょうさん)」と言う、枳穀(きこく=ミカン科のダイダイやナツミカンの成熟間近の果実)・陳皮(ちんぴ=蜜柑の皮を干した物)・香附子(こうぶし=カヤツリグサ科ハマスゲの塊根)・蒼朮(そうじゅつ=キク科オケラ類の根茎)などを調合した漢方薬などを飲み、患部を暖める位の消極的治療法しかなされませんでした。

 なお、疝気は男性特有の病気とされますが、女性が動揺の病状を発した場合は「癪(しゃく)」と診断された様です。しかし、「別荘」を持つ男性特有の病気である事。そして、その「別荘」が腫れ上がる事。体内の筋が引っ張られる様に痛む事。蕎麦を食べると病状が悪化する事(かけ蕎麦はともかく、盛り蕎麦、ザル蕎麦は、お腹を冷やす)など、しっかりつじつまが合っていて、さもありなん、と思えてしまいます。

 古くから、この病は、「疝気の虫」と言う虫が、腹中にいて、その虫が原因であると言われました。江戸時代の「譚海」と言う本には、大便のとき出てくる白い細長い虫が「せんきの虫」である、と述べられていますが、これは回虫、ギョウ虫などの寄生虫で、「疝気の虫」ではありませんが、寄生虫病による腹痛まで「疝気」と考えられていた事が伺えます。「疝気の虫」は、「白い細長い虫」ではなく、人間の体内で筋を引っ張ったり、そばを求めて、体内を上昇する時は、平泳ぎの様な格好で演じられますので、「手」があるようです。きっと、よく漫画に出てくる二足歩行の「虫歯菌」の様なイメージでしょうか。

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