« 逃 水 | トップページ | 商売訓 »

八相縁喜

 先日は甲賀市信楽町の信楽駅前広場で恒例の「しがらき駅前陶器市」が行われ、連日大盛況だったそうです。

 ご存知のように信楽焼を一躍全国区にならしめたはタヌキの置物で、このタヌキには「八相縁喜」という八つの縁起があり、商売繁盛の縁起物として瞬く間に全国に広がりました。タヌキが右手に持つ「御通」あるいは「大福帳」には、「世渡りは先ず信用が第一ぞ 活動常に四通八達」(信用こそ世渡りの第一)という意味が込められています。

 ところで、単式帳簿とは銀行の通帳や子供お小遣い帳のように金銭の出し入れのみの記載で、複式の場合は金銭の出し入れとそれに伴う資産の増減も記載しますが、昔の商売は掛売りがほとんどで、大福帳のような単式帳簿が一般的でした。

 明治の頃、富山で育った黒田善太郎は幼少の頃、家業が人出に渡ったために丁稚奉公となります。紙の卸問屋で、大福帳の表紙を販売する奉公先で寝る間も惜しんで働き、その経験を活かして黒田表紙店として独立します。成功して国(富山)に錦を飾りたいとの思いから作った商標が「国誉」(現コクヨ)でした。

 表紙のみの加工販売から、やがて帳簿そのものを製作するようになり、下請けからメーカーへと成長してゆくことになります。「良い品物を作れ」が口癖だった黒田の作った品物は決して安くはなかったとのことですが、「良い製品は結果として安くなる」との信条で、手作りの良品にこだわったそうです。

 黒田が商売を始める時、知人から「今頃、いい商売など残っているはずがない。もっとお金をもっている人、もっと賢い人たちがすでに始めている。今頃残っている商売はカスの商売だ」と言われたそうです。しかし、自分が出来ることに磨きをかけ、誠心誠意で商品を作り出す黒田は、徐々に客の信頼を獲得していきます。

 戦後、占領軍による経済・財政改革の一環で旧来の財政・税制が大きく変貌をとげることになります。いわゆる「シャウプ勧告」により、それまでの単式簿記から、貸借対照表を加え資産と負債のバランスを見るのに適した複式簿記が導入され、青色申告も制度化されます。結果、黒田の店先に得意先が現金を積み上げて行列をつくるほどに帳簿需要が急激に増大。需要が増大すれば価格を上げるのが通常ですが、「今の状況はアブクのようなものだ。そんなもんに目がくらんではダメだ」とし、原価ぎりぎりの値段で品物を渡していったそうです。そういった行動が結果的にコクヨの地位を確固たるものにしていきます。

 ちなみに、タヌキの置物が体現している「八相縁喜」とは下記のようなものです。

 「笠」 思わざる悪事災難を避けるため 用心常に身を守る笠

 「目」 何事も前後左右に気を配り 正しく見つむることを忘れめ

 「顔」 世は広く互いに愛想よく暮らし 真を以って努めはげまん

 「徳利」恵まれし飲食のみにこと足利て 徳はひそかに我につけん

 「通」 世渡りは先ず信用が第一ぞ 活動常に四通八達

 「腹」 もの事は常に落ちつきさりながら 決断力の大胆をもて

 「金袋」金銭の宝は自由自在なる 通用をなせ運用をなせ

 「尾」 何事も終りは大きくしっかりと 身を立てるこそ真の幸福

|

« 逃 水 | トップページ | 商売訓 »

つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 八相縁喜:

« 逃 水 | トップページ | 商売訓 »