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江戸の間男、浮気事情

 江戸の「間男・密通」は、現代での「不倫」です。江戸時代の密通は意味が広く、結婚していない男女が性的関係を結べば、すべて密通です。結婚を望んでいる男女が、親に隠れて関係しても密通です。現代では、不倫は離婚の理由にはなりこそすれ、刑法で罰せられる事はありませんが、江戸時代は、多くの場合、密通は死刑か追放刑になりました。磔(はりつけ)や獄門(ごくもん)も珍しくありません。しかも、幕府の公の死刑だけではなく、私的な処刑も認められています。

 こんな事件が記録されています。文政三年(1820)五月、江戸近郊の堀之内に、キセルの羅宇(らう)に漆絵を描く職人がいました。その女房が前々から密通していて、職人はその現場に踏み込むと、女房と間男を殺害したのですが、その殺害方法が凄惨です。「両人とも捕え、近所の寺内へ連れ行き、間男をば羅切(らせつ=陰茎を切り落とし)いたし、女は陰門をくりぬき候よし、然る所、検視の参り候迄そのまま差し置き候処、いたち、右女のえぐり口へ夥しく(おびただしく)付き候よし」、と言うものです。江戸期、妻の密通を夫が知っても、多くは当事者間で内済(示談)になり、この様な私的な処刑は稀です。

 この職人が受けたお裁きは記録に残っていませんが、このキセル職人はどうなったのでしょうか。現代では当然、殺人罪、死体損壊罪などにとわれるはずですが、江戸期ではたぶん無罪です。江戸中期の寛保二年(1742)に、八代将軍・吉宗公主導で、大岡越前が中心となって編纂した「公事方御定書」(現代の法律)の下巻、俗に「御定書百箇条」と言う法典には、「密通御仕置之事」として二十六箇条渡り、規定があります。その中に、

従前々の例
密通いたし候妻 死罪

一、密通の男 死罪
追加
寛保三年極(きめ)
一、密通の男女共に夫殺し候はば、紛れ無きにおいては、構(かまい)無し
追加

密夫を殺し、妻存命に候はば、その妻 死罪
   但し、もし密夫逃げ去り候はば、妻は夫の心しだいに申し付くべし

 とあるからです。密通した男女は、公刑でも私刑でも、死をもって償わされた事がわかります。しかし、幕府は密通の当事者が示談にする事も認めていました。この密通を内済にして示談金を取る場合は、詫び状を書かせた様です。その詫び状の例を示しますと、

        御詫申一札之事
 一、
貴殿妻女おかつ殿に横恋慕いたし、不義相働き申し候事、誠に申し訳御座無く、御詫申上げ奉り候、然らば、表向きの御沙汰にも相成り申す可(べ)き処、格別の御憐憫(ごれんぴん)を以て、世上の大法に随(したが)い、七両二歩の償い金差上げ、御内済に成し下され候段、有り難く存じ奉り候、然る上は、已後(いご)おかつ殿に、言葉も懸け申す間敷(まじ)く、若(もし)不都合の事致し候節は、表向の御扱に成され候とも、聊(いささか)も申し分御座無き候、後日の為、御詫証文仍而如件(よってくだんのごとし)、
    辰之九月十五日          左官
                      伊之吉 印
 竹屋久五郎殿

 と言うものです。江戸のいつ頃の、どこの左官の伊之吉さんが書いた詫び状かは分からないのですが、江戸の貴重な資料です。この詫び状や、江戸川柳「間男は七両二歩と値が決まり」「据えられて七両二歩の膳を食い」などを見て頂ければお分かりのとおり、江戸での密通の示談金は、七両二歩でした。これは、江戸時代、十両盗めば首が飛びます。間男も死罪ですので、盗んだのと同じ。ただし、江戸の十両大判は、実質通用価格が十両の75%、つまり七両二歩だったので、間男の示談金も七両二歩が相場になったのですが、後世の江戸川柳「生けておく奴ではないと五両とり」「声高しお騒ぎあるなはい五両」などの川柳を見て頂ければお分かりのとおり、五両に値下がりしています。

 そしてそして、『駒長』の場合、能書きでお話ししたとおり、お駒さんと長兵衛との離婚はまだ成立していませんので、お駒さんと丈八さんの間柄は、江戸では「密通」と認定され、二人の逃避行は、非常に危険なものとなります。 

 しかし、すぐに大家さん自身か、大家さんと同組の五人組や町役人、延安喜さんの縁者、縁者などが探し出すでしょう。そして、三行半(離縁状、江戸の離婚届を書かされるでしょう。三行半を渡せば、離婚が成立します。江戸では、現代の様に「離婚した女性は、一定期間を経ないと、再婚出来ない」なんて法律はありませんから、こうなれば、不実な男と縁を切り、多少ブ男でも実のありそうな亭主を迎える事が出来ます。

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