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江戸湾における鱚青ギス釣り事情

 キスは、インド洋および西部太平洋の沿岸の浅い海で暮らす全長30cm程の
魚。美味で食用に利用されるほか、釣りの対象としても人気があります。日
本では元禄時代(1688~1704)から釣りの対象となっていたようです。キス釣
りをする時は、前の晩から船頭の家へ行って泊まります。当時の船は手漕ぎ
で、エンジンなどありませんから、翌朝は夜が明ける前に船を出すためです。
行きの船の中で、船頭が飯を炊いて朝ご飯を食べさせてくれます。船には長
さ一丈(約3m)もある脚立も積みますので、乗客は五、六人です。釣り場に着
く前に、乗客は順番を決めるクジを引きます。

 

 釣り場に着くと、海の中へ脚立を立てて、一番クジの人が何も持たずに乗
ります。すると、二番クジを引いた人が、船の中から一番の人に座布団、釣
り竿、ビクなどを手渡します。少し場所を離して、次の脚立を立て、二番ク
ジの人が乗り、今度は三番クジの人が座布団、釣り竿、ビクなどを手渡しま
す。こうして、順番に最後の人まで、距離をおいて脚立を並べて、順番に乗
って行くのです。ちなみに、最後の人に荷物を手渡しするのは船頭です。帰
りの時は、最後のクジの人から、逆の順番で船が迎えに来てくれますから、
最後に船に戻る一番クジの人は、もう、船に戻っている二番クジの人に、自
分の釣り竿など道具一式を手渡しして回収してもらってから、自分が船に乗
り込む事になります。

 

 暗いうちに脚立へ乗っていると、だんだん四方が明るくなってきます。青
ギスのシーズンは初夏ですから、夜明けは、現在の午前五時前です。この夜
明けを迎える時が、江戸の釣り師たちにとって、千金の値打ちがあるのだそ
うです。

 

 キスは海のキンチャク切りと呼ばれるほど、餌を食ってすぐに逃げてしま
う事が多く、餌の付いた針を向こういっぱいに打ち込んで、静かに手前に引
いてくるのですが、コツンと当たりがあってから合わせたのでは遅く、打ち
込んですぐに、から合わせといって、竿を引きます。から合わせ五割といっ
て、その時に五割くらいの確率でかかっています。それでなければ、糸道に
鳥の羽か赤く太い糸の目印をつけて、目印が少しでも動いたら合わせるのだ
そうで、釣り師と魚の切るか切られるかの真剣勝負なんだそうです。

 

 

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