石油輸出国機構(OPEC)と非加盟のロシアなどを含めた主要産油国で構
成する「OPECプラス」は、新型コロナウイルスの感染拡大による需要の急
減を受けて2020年に実施した協調減産を徐々に縮小(=増産)しており、
毎回のOPECプラス会合で生産枠を協議しています。
8月3日開催の会合で、OPECプラスは9月から増産幅を日量74万80
00万バレルに引き上げることを決定しました。日量10万バレルの追加増産
となりますが、実際上、需給への影響はほぼゼロです。
米国のレギュラーガソリンの全米平均価格は6月に1ガロン(約3.8リッ
トル)=5ドルを超え過去最高値となり、市民の生活を圧迫。インフレ対策へ
の不満がバイデン米大統領の支持率低迷の要因となっていました。
人権重視のバイデン大統領は以前、米ワシントン・ポスト紙のサウジアラビ
ア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害を巡り、関与を疑われるサウジのムハマ
ンド皇太子(サウジの実質的支配者)を非難し、同国を国際社会の「のけ者」
にすると訴えたこともあり、両国関係は冷え込んでいましたが、インフレ高進
で支持率低迷にあえぐバイデン大統領は人権問題を棚上げし、批判が強いガソ
リン高を和らげるために7月にサウジを訪れ原油増産を求めました。
防空体制の強化を望むサウジへの地対空ミサイル「パトリオット」の売却と
いう手土産を持ってのサウジ訪問でしたが、日糧10万バレルという微々たる
増産に、米国内ではバイデン大統領を軽視する対応だとの不満があります。
一方で、要請には応じてみせたとの評価もあります。OPECプラスは5月
の会合で7月と8月は日糧43万2千バレルの増産で合意していましたが、米
国からの増産圧力の強まりを受けて、バイデン大統領の来訪前の6月の会合で
7月・8月の増産幅を前回合意の1.5倍となる日量64万8000バレルに
引き上げており、すでに対応済みとみることもできます。
OPECプラスの生産能力に対する現在の生産量は天井に近く、目標として
の増産枠を拡大しても投資不足により生産量を増やせず、実際の生産量は目標
を下回ったままというのが実態です。産油国側としては世界的な景気減速によ
り需要が伸びないとの懸念もあります。
また、米国のガソリン高は需要増に対応できない米国内の精製能力の制約も
要因の一つで、一方的に増産を求められるサウジ側の不満もありながら米国の
求めに応じたのが今回の10万バレル増産です。
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