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お盆事情

 西暦七世紀の中頃に、盂蘭盆会の法要がはじめて行われて以来、明治五年
(1872)に太陽暦が採用されるまでの千数百年の間、わが日本国では、太陰暦
(いわゆる旧暦)の七月十三日から十六日までの前後四日間に、盂蘭盆会の
行事を行ってきました。しかし、太陽暦(いわゆる新暦)になって、大変に
困った箏が起こってしまいました。

 御一新で明治になるまでは、日本の総人口の八十パーセント以上が農業に
従事していたのですが、農家にとって、新暦の七月中旬というのは、極めて
忙しい時期なのです。旧暦の七月中旬(現代の暦で八月下旬~九月上旬にあ
たる)なら、いわゆる農閑期に入り、ご先祖様を供養するだけの時間的余裕
が十分あります。しかし、新暦の七月中旬では、まさに農繁期の真っ盛りで、
先祖の供養どころではないのです。

 そうかといって、旧暦を新暦に当てはめて、旧暦の日程でお盆を行うと、
毎年、お盆の月日が変わることになってしまうので、不便でしかたありませ
ん。さらに、現代のように、農業従事者の割合が極めて小さくなってしまっ
た時代なら、お盆が新暦の七月中旬でもよさそうな気もしますが、明治以降
の新しい学校教育制度では、七月の中旬はまだ授業が行われている期間です
ので、子供が家族と一緒に、先祖供養をすることが困難になってしまうのです。
 こんな理由から、明治五年から令和の現在まで、盂蘭盆会は『月遅れお盆』
と呼ばれる、お盆の期間をまるまる一か月遅らせた、新暦の八月十三日から
十六日までの、前後四日間に行うことが合理的となり、多くの企業も、その
時期に合わせて、会社や従業員の夏休みを定めるようになったので、多くの
日本人が、新暦の八月十三日から十六日に行う『月遅れお盆』を採用するに
至ったのです。
 しかし、昔からの風習を大切にする気持ちから、新暦になった現在でも、
お盆は七月十三日から十六日に行うこともあり、こちらは、新暦に合わせた
お盆という事で『新盆』といいます。さらにさらに、もっと昔からの風習を
大切にする気持ちが強ければ、旧暦の七月十三日から十六日を新暦に当ては
めて、その期間でお盆を行うこともあり、こちらは、旧暦に合わせたお盆と
いう事で『旧盆』といいます。なお、関西を中心として、七月二十四日に行
う、お地蔵様を子供の守り本尊としてお祭りする『地蔵盆』というものもあ
り、こちらも、新暦七月二十四日に行う場合と、旧暦七月二十四日に行う場
合があります。
 今年のカレンダーに当てはめてみますと、
新暦 七月十三日~十六日 (旧暦六月十五日~十八日)『新盆』
新暦(八月 十日~十三日) 旧暦七月十三日~十六日 『旧盆』
新暦 八月十三日~十六日 (旧暦七月十六日~十九日)『月遅れお盆』
新暦 七月二十四日    (旧暦六月二十六日)   『新暦の地蔵盆』
新暦(八月二十一日)    旧暦七月二十四日    『旧暦の地蔵盆』
 となります。
 これだけ、複雑になってしまうと、今現在のわれわれのご先祖様は、いつ
里帰りで、この世に戻ってきたらよいのか、それこそ、あの世で迷われてる
かもしれませんし、怪談噺や今回お届けした噺含む落語、講談などに登場す
るお化けさんたちも、いつ、化けて出るのがベストシーズンか、困っている
かもしれません。

 

 

 

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